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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)184号 判決

控訴人 三井鉱山株式会社

右代表者代表取締役 倉田與人

右訴訟代理人弁護士 鎌田英次

同 松崎正躬

同 村田利雄

同 古川公威

同 橋本武人

同 高島良一

被控訴人 谷口岩夫

右訴訟代理人弁護士 諫山博

同 斉藤鳩彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

当裁判所も、被控訴人の本件仮処分申請を正当として認容すべきものと判断する。そして、その理由は、左記一、二のとおり付加、訂正するほかは原判決の説示と同じであるからこれを引用する。

≪引用証拠の訂正、補充、証拠判断省略≫

なお、≪証拠省略≫を総合すると、控訴会社は、昭和三五年の三池鉱業所における大争議終了後、生産再開にあたり、職場秩序の確立に努力を払うとともに、かねて争議行為や新旧労組の対立等に基因する暴力行為が多発していた実情に鑑み職場内外における暴力の排除に意を注ぎ、暴力行為には厳重な処分をもって臨む方針であることを従業員にも周知徹底させ、生産再開後昭和三六年九月頃までの間に三池鉱業所において暴行事件等により会社から懲戒処分を受けた者も相当数にのぼり、そのうち懲戒解雇された者は被控訴人を除き六名であったこと――前示労働協約及び就業規則には不都合解雇(懲戒解雇)事由として「事業場の内外を問わず刑事法令に違反し悪質と認められる者」があげられている――が認められる。そして、右のような控訴会社の方針自体には何ら非難すべきところはないし、また争議終了直後で新旧労組の対立もあり未だ職場の秩序が充分確立されず、とかく暴力に訴えようとする風潮のみられ勝ちな情勢下にあっては、通常の場合に比し、暴力事件等を起した従業員に対し厳重な処分をもって臨む必要のあることを否めないであろう。しかし、かかる事情を考慮に入れても、なお、本件被控訴人の所為は、その態様及び前示引用にかかる原判決認定の諸般の事実を総合考察するとき、これに懲戒解雇をもって臨むのは懲戒権の濫用にあたると解するのが相当である(ちなみに、乙第二三号証によれば、前記懲戒解雇処分を受けた六名は、その殆んどが被害者を殴打或いは足蹴等にして傷害を負わせており、かなり悪質な行為と考えられるのに対し、被控訴人の本件所為は殿村主席係員の適宜な措置によってであろうが殴打等にまで至っておらず、暴行自体としてもさほど悪質なものとは認められない)。

二、次に、控訴人は、本件解雇が懲戒解雇としての効力を生じないとしても、普通解雇として有効である旨主張する。しかし、控訴人の本件解雇の意思表示が懲戒解雇の意思表示としてなされたことはその主張自体から明らかであるが、右が無効とされる場合これを普通解雇の意思表示に転換することは許されないものと解する。けだし、一般に、解雇の意思表示のような単独行為については、いわゆる無効行為の転換を認めると、相手方の地位を著しく不安定なものにするから、転換は原則として許されないと解すべきであるし(なお、懲戒解雇と普通解雇とでは、その根拠、要件、法律的効果が相互に異なるから、前者としての意思表示に後者の意思表示が当然に含まれているとみることも相当ではない)、実際上の見地から言っても、かかる転換が認められることになれば、安易に懲戒解雇を行なう傾向を招き、ひいては懲戒権の濫用を誘発するおそれが多分に存するからである。

従って、控訴人のこの点の主張は、普通解雇としての有効性に言及するまでもなく、失当として排斥を免れない。

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 松本敏男 柴田和夫)

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